ダブル・ファンタジー 村山由佳著
オンライン仲間の一人から、小説の話題になり薦められた本である
2007年頃の本なので14年ほど前になる
生まれて初めて読む類の本だったがいい意味で刺激にはなった
もちろん創作としての刺激だが
ハイセンスな恋愛官能小説という感じだろうか
35歳の女性売れっ子脚本家の恋愛遍歴が綴られる
夫との物足りない性生活とすれ違い、超大物演出家との関係と別れ、大学時代の先輩との出会いと別れ、若手俳優との新たな関係まで
所々に官能的な描写が細かくなされるが、ベタなエロチシズムは感じない
なぜこのようなものを作者は書きたいと思ったのだろうと思いながら読み進めた
一つは憧れか
性を通じて自分を解放したいという憧れ
主人公は脚本家という仕事はしていても少女っぽく大人になりきれない女性である
そのくせ、性欲は異常に強い
このキャラは多分、著者自身を投影しているのだろう
性への憧れが強いがそこまで自分を解放できない
先の遍歴で言えば、夫や大学の先輩との関係は現実のように思える
一方、演出家との関係は現実にあったとしても、あれほどまでの蹂躙されるような関係は想像だろう
メールのやり取りが長々と続くが、あれは実際にあったことではあるのだろうが、それを題材にして、さらに過激にしそれを通じて自分の創作に関しての考えを表現するとともに、相手の演出家に自分を蹂躙する役割を負わせドラマ化したように思える
夫と住む埼玉の家の情景はほぼ現実だろう
作物を育てたり犬を散歩させたりといった情景は経験から生まれている
夫とされる男性との性生活がどの程度かはわからないが
大学の先輩との出会いが香港となっているが、あれは創作で多分取材だろうと思える
ただ先輩との出会いと関係は多少あったのでなかろうか
あれほど濃密ではないにしろ
そして最後の若手俳優との関係は完全に夢物語であろう
あのような目眩く性を経験してみたいと思っているだろうが
ただ性に溺れ切るほどでもないので逆に中途半端な印象を持つ
やはり少女っぽさが残った性に憧れる大人の女性がこんなふうな経験を味わってみたいというレベルを脱していない
一つだけ面白いと思った表現があった
フィクションにせよ、ノンフィクションにせよ、他者に「物語る」芸当が、できるのはあくまでも才能の多寡にかかっている
書ける人はほっといても書け、書けない人は誰がどう言っても書けない
残酷なほどに
これは作者の本音だろう
落語家、漫才師、芸人などと称される者たちの中でも、真の意味で、語りで惹きつけられる人とそうでない人で完全に二分される
松本人志のすべらない話などを見ればよく分かるし、落語などは同じ噺を様々な落語家で聞き比べて見ればその違いは残酷なまでに明白となる
小説も全く同じだと思う
ただ、話芸と同様、単なる面白さで終わるか、魂に響くものとなるかでそこにはそそり立つ大きな壁がある
それが本物と偽物なのかもしれない
創作とは残酷でもあるのか