家族を想うとき
2019年ケンローチ監督の作品
家族のために働いても働いても報われず、徐々に家族が崩壊していく哀しく切ない物語
社会の底辺で身を粉にして働くエッセンシャルワーカーの現実を炙り出すとともに、家族の愛をからめて描く
素晴らしい映画である
四人の家族のうち、両親と兄を中心にかつ丁寧に丁寧に紡いでいく
ラストには評価が分かれるかもしれない
救いのない終わりととる人も多いだろうから
暴行でボロボロになった体にも関わらず朝早くに仕事に出かけるお父さんとそれを必死に止めようとする奥さんと息子
お父さんはそれでも仕事に行くために車を出し泣きながら走る
深く見れば資本主義の矛盾を描いた社会派映画となるが、僕はそう思わなかった
これは家族の物語だ
ラストに描かれていたのは絶望や痛みではなく、希望と未来だ
反抗期の息子が変わりつつある姿、夫婦の変わらぬ愛、妹の家族を想う気持ち
どんな家族にも大なり小なり様々な波は押し寄せる
大きな波にバラバラになる家族もあれば、乗り越えて本物になる家族もある
僕には見える
あの家族の未来が
断言してもいい
ケンローチ監督にもそう見えていてあのラストにしたと
あえて一つ理由を挙げると、ラスト前でお父さんが居眠り運転手をするシーンが出てくる
あれで事故を起こさなかった(させなかった)ことだ
あれは好転のサインだ
そして暴力を受け最大のピンチを迎えるラストとなる
病院で奥さんがお父さんの仕事の責任者に啖呵を切った言葉はケンローチ監督が込めたもう一つのメッセージだ
お父さんとお母さんは半年間必死で働いて借金を返す、反抗的だった息子は立ち直る、妹は優しい目線でそれを見守る
数年後、息子は優秀な大学に奨学金で進学
さらに数年後、息子は立派な社会人(もしかしたら弁護士とか医者に)になり、妹も優秀な大学に奨学金で進学
両親はようやく一つ肩の荷が降りる
家族の絆は強く簡単なことで解けることはない
どんなにお金があって楽で贅沢な暮らしが出来ても、最も大切な家族や夫婦や兄弟や友人との絆がなければその人生は寂しく虚しいのだ