白夜行
東野圭吾の代表的な小説である
彼の作品を初めて読んだ
この手の内容は推理小説というのだろうか
解説によるとノワールとある
心の闇を描いたものという意味か
確かに単なる推理小説ではない
というのも、犯人を探す謎解き要素よりも、なぜそれをしたのかという方に力点が置かれているせいだろう
ただそれもうっすらと読めてしまう
なのでラストであっと驚くことはなく、刑事が推理を披露する段階になっても、読み手としては、ああそうだよねと確認作業のような感じになる
ある意味、素晴らしく緻密に計算された建造物的な小説でもあって、この本の醍醐味はそこにあるのではなかろうか
ただトリック的な部分はほぼ毎回同じ手口で明かされるので既視感が強い
それとリアリティがどうしても乏しい
それはもしかすると、犯人である主人公二人の心情を描かないことによって、その心の闇を浮き立たせる手法をとっているがゆえかもしれない
まるでこの二人はスーパーマンか超能力者のようなのである
なんでも見通せなんでも出来てしまう
しかも全く失敗をしない
さすがに無理がある
もう一つ、この小説にはとても大きな弱点がある
それは心の闇への共感である
確かに、母親によって金のためにだろうが体を慰みものにされていた少女と、それをしていた自分の父親及び母親と使用人の浮気を見ていた少年の心の闇はなんとなく理解はできる
しかしこの小説においてその出発点が最重要な点であって、単にそういうことがあったという背景が示されるだけでは弱いのである
そのせいか読み終えてから何か物足りないものが残る
ああなるほどねくらいで終わって、きっと明日になれば忘れてしまうくらいのものであって、大変な文量の割には読後感が軽い
本来は重いテーマなのに残念ながら軽いのである
犯人の心情が一切描かれないことがその要因でもあって、解説ではその手法を褒め称えているが果たしてそうだろうか
穿った見方をすると、解説の馳星周はその手法を嫉妬すると言いながら、その実は揶揄しているのではないのか
僕は、作者は、心情を描かないのではなく、描けない、もしくは描くことをそもそも断念したのだと推察する
描かずに済ませる手法を考えたと言った方が正解かもしれない
だからこそ緻密に計算せねばならなかった、つまりスーパーマンにならざるを得なかったわけで、人間的な葛藤があったり、そのせいで起こり得るミスや漏れが彼らに生じてはならなかったのだろう
そして最後にもう一つ
あの主人公二人は何を目的に生きてきたのかという重要な点である
金? 復讐? 幸福?
男は女にとって余計なものを自らの手を汚して排除しようとしてきた
ではそれは彼女への愛か、それとも憐れみか、あるいは共感か
では女の方はどうか
自分のブティックを持って経営する喜びはなぜでそれはどこから来るのものか
しかも寝たきりになった育ての母親を、殺さざるほどの動機を持つのはなぜか
少しでも都合の悪いものは全て殺すと描きたいだけか
無理がありすぎるだろう
全て白と黒で塗りつぶして灰色がないからそうなる
要は最も重要な部分は全て読者にお任せしたということである
すごく売れている作家だというのは理解ができる
一人でお茶をしたり、病院の待ち時間だったり、ちょっとした旅行などに携帯するならその読み易さと内容の軽さにおいて持ってこいだろうと思うからだ
ただ僕はもうこの人の作品を読むことはないだろう
そう思った