ちょいとしつれいします

映画や本や趣味などを失礼ながら好き勝手に綴ります

空白

松坂桃李主演の映画である

 

万引きした少女をスーパーの店長が追いかけたがために、交通事故で亡くなった後の関係者の苦悩を描いている

 

重厚に描かれていて面白かった

 

少女の父親である古田新太はこの人でなくてはと言うほどのハマり役である

 

原作はなく、監督が実際に目にしたことがモチーフとされていて脚本も監督である

 

この手の映画は実話が元になっていることが多いがそうではなかったことにまず驚いた

 

ただそのせいかストーリー自体は想定内でもあった

 

やはり事実は小説より奇なりなのか

 

この展開はああそうなるのですね的であって驚きはない

 

最も重要でこの映画の見せ場であるシーンは、少女を最初に轢いた女性が自殺し、その葬儀に現れた父親に対して自殺した女性の母親が語るところだろう

 

感動的ではある

 

だがしかし

 

この辺りからラストまでやはり作りもの的になって行ってしまった感が否めない

 

自殺した娘に代わって許してくださいと謝罪する母親

 

見るものの予想を裏切る展開にしたかったのかもしれないが、どうしてもリアリティを感じない

 

最愛の娘が自殺した葬儀の場であの言葉と冷静な態度になるだろうか

 

もちろん意図せず少女を轢いてしまった娘の罪悪感と苦悩は痛いほど知っているとはいえ

 

少女の父親がそうであるように、自殺した女性の母親も、誰かに恨みをぶつけたいのではないだろうか

 

それが人間ではないか

 

そして恨みたくなる対象は誰かといえば、もちろん飛び出してきた少女である

 

あの子が飛び出しさえしなければうちの娘が死ぬことはなかったと叫びたいのではないか

 

私も娘もあなたに謝った、あなたも謝りなさい、ここで土下座しなさいと言わないだろうか

 

それをしない父親の胸ぐらを掴むくらいのことをしても不思議ではない

 

これも想定内だがあるべきリアリティではなかろうか

 

これは救われない物語である

 

悪人も善人もいない

 

であるならラストまでそれを通して欲しかった

 

父親が善人ぽくなる必要もないし、スーパーの店長に温かい言葉をかける必要もない

 

ただやりきれない後悔だけが残るのだ

 

重い沈黙を残して終われば良かったと思う