ブレーキングバッド
確かに面白かった
ネットフリックスで第一位の人気を誇るだけある
ニューメキシコ州が舞台なんだが、やっぱりアメリカは広大だなあと思わせる
シナリオ、役者、舞台、全てが揃った作品
何より設定が良い
余命半年と宣告された末期癌の落ちぶれた化学教師が、自分の治療費と家族の将来のために、メス=メタンフェタミン、いわゆる覚醒剤を合成し、カネを儲けようと思い立つ
すんなりと入ってくるわかりやすい設定
昔、シナリオを書いていた時に、一行で全てを言い表せるかどうかが重要とあったが、これはその代表格だろう
次に良いのが役者
主人公の家族と弟夫婦、それに主人公の相棒となる男、皆、立っていて、かつ分かりやすい
主人公は、賢く、冷静で判断力があり誠実で優しいとか、その妻は、そんな夫を愛していながらもリスペクトはしておらず、一家を支え、決定権は自分にあると思い込んでいる
多少の違いこそあれ、多くの家庭に共通するものがある
この作品の隠された真のテーマは実はここにある・・と思う
恐れず言おう
これは、何も分かっちゃいない馬鹿な女が招いた、男の悲哀物語なのだ
きっとカミさんは猛反発するだろうが知っちゃいない
どうせどれほど説明したって解りゃしない
そう、男の多くは分かるが、ほんの一握りの女を除いてまず女には分からない
その証拠に、カミさんはずっと、この主人公が一番悪い、馬鹿な男だとずっと言っていたし、相棒の若い男が可哀想だとも言っていた
麻薬を合成して販売するのは違法行為で悪いことに決まっている
世のほとんどの女を代表している主人公の妻は、なぜそのようなことを自分の夫がやらねばならなかったのかに思いを巡らすことなく、一方的に責め立てる
自分と自分の家族を危険に晒すと言って
では彼女にとって家族とは誰を指しているのか
そう、簡単だ
自分と息子と生まれたばかりの娘であり、そこに夫は入っていないのだ
ここにこのストーリーの大切な視点の一つがある
では主人公である夫は、賢く分別があるにも関わらず、なぜ麻薬合成を決断したのか
専業主婦で身重の妻、脳性麻痺の高校生の息子、余命半年の自分
家のローンがあり、高額な治療費は払えない
こんな状況で主人公はどう考えるか
肺がんのステージ3Aで余命半年と言われ、賢い主人公は、治療を意味はほとんどないと判断する
つまり高額な治療は受けないと決断する
問題はここから
同じ化学者仲間だった男女が、当時カネがないために、チンケなカネで権利を譲ったビジネスで大成功し億万長者になっていた
彼はそれをずっと後悔と共に引きずっていた
久しぶりに会ったパーティで、妻がパートナーだった女に、自分の了承も得ず、病状を伝え支援を依頼したために、彼らがそれを申し出た
ここに妻である女の馬鹿さ加減がクローズアップされる
自分は夫の体のことを第一に考えていて、それがために正しいことをしていると思い込んでいる
自分の行動がいかに夫のプライドを傷つけているかには思いが至らない
馬鹿女の面目躍如だ
主人公はこう考える
馬鹿な妻の、自分のプライドを無視した行動には腹が立つものの、自分の体を気遣って治療を受けてほしいと懇願する妻や息子の思いには無駄だと分かっていてもなんとか応えてやりたい
かと言って、昔のビジネスパートナーの世話になるのは自分のプライドが決して許さない
彼は思い立つ
どうせ余命は半年だ、短い間にカネを稼げる方法が一つだけある
こうして彼は悪魔の囁きに身を任せていく
馬鹿女である妻は、さらに夫を追い詰めていく
どうしようもなく追い込まれ、嘘を重ねる夫が信頼できないと思い悩み、なんと昔の上司と不倫するのだ
しかもそれを平然と夫に言い放ち、さらに家を出ていくように言う
自分の狭い視点でしかものを見られない馬鹿女の更なる面目躍如がここにある
冷静になって夫の話を真剣に聞こうとはせず分かろうともしない
もっと後になり、夫のやっていることを知った後も、昔の上司との間の自分の不始末を夫の稼いだカネを充ててしまい、さらに夫を窮地に貶め、これがラストまで響く
これがなければあの時点で彼は足を洗うことができた
馬鹿女ここに極まれりだ
さてこの物語の重要なもう一つのテーマがある
主人公である夫は、合成麻薬を製造しさまざまな悪党と対峙し、とんでもない大金を手にすることになっていくが、その過程で彼は大きく変化していくことになる
平々凡々としてうだつの上がらない化学教師に身をやつしていた男は、誰も作れない高純度のメスを自分だけが作れることに生き甲斐を感じ始める
さらに、悪党たちとの命をかけたやりとりに、生の実感を得る
そう
彼の目的は、最初は自分の治療費であり家族の将来のためのカネであったが、それが変わっていき、いつしか、自分の生き甲斐になってしまう
そして彼はそれを家族のためと自分に言い聞かせる
どこかの時点で彼はもちろん分かっていただろうが引き返せない
どうしようもない男の悲哀がそこにある
何も分かっちゃいない、ほとんどの馬鹿な女どもは、最も重要かつ重大な最初のきっかけを自分が作ったことには永遠に気付かず、結果だけを持って主人公の男が馬鹿だと言う
それを知っていながらも、どうしようもできずただ諦めるしかない男たちの悲哀
では、分かっているごく一握りの女ならどうしただろうか
まず第一に、真に夫思いなら、夫の意思を尊重するだろう
彼は元々治療を受けないと決めていた
まずその決断を受け入れるだろう
少なくとも夫の昔のビジネスパートナーに勝手に相談し支援を依頼するなんて安易で思慮不足で馬鹿なことは絶対にしないだろう
とはいえ、それでもどうしても治療を受けて欲しいと思ったなら、家を手放そうという提案もあったし、2台ある車も売ることもできた
さらに身重でも働いて少しでも助ける道もあった(実際にそうなったが)
妹夫妻への援助も夫の了解を得てすることもできたかもしれない
主人公は、家や車を手放し、自分は身重でも働くから治療を受けて欲しいと言われたらどう思うか
どれほど思いやりの深い妻に感謝するか
そんな妻を危険に晒す麻薬合成を決断などしないだろう
そのくらいの分別はあの時点ではできた
その時、夫は恥を偲んで、自ら昔のビジネスパートナーに頭を下げるかもしれない
いやそうするだろう
それは自分のためでなく妻や家族のためだと思うからだ
それができないほど馬鹿女は夫を追い込んだのだ
そして結果的に自分も傷つき大きなものを失うことになった
彼女はいつかそれに気づく時が来るだろうか
それとも麻薬合成に手を染めた夫を死ぬまで馬鹿だと罵り続けるのだろうか