ちょいとしつれいします

映画や本や趣味などを失礼ながら好き勝手に綴ります

ノイズ

素晴らしい俳優陣で作られたどうしようもない駄作

 

小説や脚本などをそこそこ創作してくると、そのストーリーの全体像がある程度は見えるようになるもので、これはもしかするとたとえばピッチャーだった人が、試合を見て、その投手の配球の傾向とか意味とかを理解するのに似ているかもしれない

 

何を言いたいか

 

原作があるそうだけれど、そちらは読んでいないのであくまで映画になるが、そのシナリオが全くなっちゃいないのだ

 

最初に出てくる幼児レイプ殺人犯の設定はどういう意味を持っているか

 

あれはその後に引き続く事件の発端であり、島に恐ろしい殺人鬼が潜伏しているとするための布石なのだが、そのためだけに都合よく置かれただけなので、全くリアリティに乏しく、実はその辺の通行人と変わらないレベルにまで貶められている

 

それが見えてしまうので、ドラマ自体が安っぽくなってしまった

 

人間ドラマを描いているようで実は軽んじてしまっているのだ

 

あの殺人犯も、殺された保護司にも人生がある

 

そこを完無視してしまう軽さ

 

殺人犯が保護士に連れられてあの島に渡ってくるには相当なバックグラウンドがあるはずで、観るものにとってはとても重いはずである

 

重みからすれば、あの幼馴染の友情や恋心や嫉妬心などより遥に重い

 

バランスが悪いのだ

 

そしてそのバランスの悪さはその本来のテーマにも現れる

 

島民を巻き込んでいくプロセスと明かされる友情と嫉妬の物語にも

 

島のためという設定だが、共感性に乏しすぎる

 

五億円の交付金だかのために、あの女性町長があのような言動と行動をとるかという話である

 

自分の懐に入る金でもない

 

すでに町長というトップとしての立場とか権力は得ている

 

では何を彼女は欲しているのか

 

ここにも人生が描かれていないので全く理解不能である

 

急に部下の助役みたいな男を死ねとか言い出すし、これも最初の殺人犯同様単なる通行人でしかない

 

でも最も本流である幼馴染の物語はどうか

 

要は好きだった女の子が親友と結ばれた嫉妬が巻き起こす事件という結末

 

あり得ないだろう

 

その描き方も稚拙で単に昔の回想シーンをいくつか見せるだけ

 

ここにも共感性が全く生まれない

 

あの巡査が隠そうと言った意図も理解できず、自殺するのも理解できない

 

元々小心者で、嘘がつけないような善人が、隠そうなどと言い出さない

 

そもそも動機がない

 

なぜならあれは事故死であって殺人ではないからだ

 

あの巡査は本来ならば、警察官として対応するから心配ないと言うはずで、自分が証言すると言えば良い

 

主人公は自分は刑務所に行きたくないから、隠そうと言う可能性は少しはある

 

しかし、ごく普通の知能と判断力さえあれば、あれで刑務所に行くことになるなどとは考えないだろう

 

交通事故のようなものだ

 

しかも明らかに相手が悪い

 

勝手に入り込んだビニールハウスの中で、幼女の三輪車を乗り回している

 

誰が考えたって異常行動だ

 

その男と揉めて押し倒したら頭をぶつけて死んだ

 

しかも警察官が目の前で目撃しているのだ

 

彼らにはあの殺人犯を殺す動機などどこにもない

 

全く問題にならない

 

もっと言えば島民でもない得体のしれない人間を隠そうと考えた場合、フェリーで渡るしか手段がなく、そこから誰がどういった理由で来たかはすぐわかってしまうし、捜索願いが出されたりして、それこそそちらの方が大問題になりかねない

 

全てが矛盾だらけで不自然なドラマになっている

 

ストーリーを考える立場からすると、まず最初に幼馴染のストーリーを考え、次にその設定である島とか、何が動機になるかを考え、最後に殺人犯の必要性を考えたのだろう

 

都合よく辻褄合わせをするためにそうせざるを得なかったのはわからないでもないが、あまりにも無理がある

 

こんな映画があのような素晴らしい俳優陣で作られるところが日本映画界の置かれた現状なのかと思うと寒々しい思いがする